はじめに
最新更新:2025年7月6日
本記事は,2024年4月の労働安全衛生規則の改正を反映し,単管足場の設置義務・高さ制限・構造計算の最新技術指針を踏まえた内容になっています(参考: 厚生労働省通知 / 仮設工業会技術指針 )。
単管足場は「簡易で自由な設計ができる」というメリットがある一方で,安全管理と法的責任の面ではより慎重な設計・確認が求められます。特に以下の点は必須事項です:
- 高2m以上で幅1m未満の作業場所には原則本足場(二側足場)の使用が義務化(2024年4月改正)
- 単管足場の構造計算では,8層8スパン以上や高さ31m超の足場には特別な強度計算・筋交い設計が必要
- 足場組立作業主任者の選件・点検記録の整備が法的義務
本記事では,これらの条件を前提とした単管足場の強度計算方法・必要な材料・確認すべき筋交いの数値をわかりやすく解説します。
単管足場は小規模工事や改修現場でよく使われますが、安全性を確保するためには「構造計算」が欠かせません。この記事では、単管足場の強度計算方法をわかりやすく解説し、実務で使えるポイントをまとめます。なお、内容は「どぼくや」などの専門資料とも整合性を取り、信頼性の高い情報に基づいています。
足場図面作成を業務とする編者(仮設工業会講義修了者)が厚労省通知・仮設工業会の最新技術指針に基づき執筆しています。
また、以下の信頼性ある一次情報を参考に構成しました:

単管足場で必要な主な計算項目
計算項目 | 内容 |
支柱の許容荷重 | 単管1本がどれだけの重さに耐えられるか(座屈荷重) |
クランプの許容荷重 | クランプ1つが支える力の限界 |
作業床の積載荷重 | 足場板にかかる作業者+資材の合計重量 |
筋交いの配置 | 横揺れ防止に必要な補強 |
風荷重・水平力の影響 | 高さや外部環境による揺れのリスク |
単管の座屈荷重計算
使用する公式(オイラーの座屈荷重)

記号 | 意味 | 備考 |
P | 支柱1本が座屈する直前の最大荷重(kgf換算可) | |
E | ヤング率(鉄:約2.06×10^11 N/m²) | |
I | 断面二次モーメント(48.6mm単管:約2.1×10^-8 m^4) | |
K | 支持条件係数(両端固定:0.7程度) | |
L | 有効長さ(m) |
計算例
(L=1.8m、K=0.7、両端固定)の場合
9.600kgf の強度がある事になります (安全率をかける前の理論値)

結論:この計算式は「単管の座屈荷重」の理論計算式としては正確ですが、
「単管足場の全体強度」を評価するには不十分です。
実務での限界と注意点
この式だけでは以下の重要な実務要素が含まれていません:
- クランプの強度
単管同士の接合部で滑ったり、ずれたりすることがあるため、クランプのせん断力や引張耐力も別に評価する必要があります。 - 水平力・風荷重への対応
足場は垂直荷重だけでなく、風などの横方向の力にも耐える必要があります。筋交い(水平ブレース)の配置計算も重要です。 - 作業床・資材の集中荷重
作業員が複数乗ったり、工具が集中して置かれると局部的な過重になる可能性があります。足場板の強度や支点間距離の確認が必要です。 - 安全率の適用
実際には座屈荷重の100%まで使用せず、安全率(通常は2〜3倍)をかけることが推奨されます。

実務的な強度確認の流れ
- 支柱の座屈計算(上記式)
- クランプの耐力確認
- 作業床の積載荷重確認
- 支柱・布材間のスパンチェック(1.8m以下)
- 筋交いの配置確認
- 安全率をかけた設計
クランプの許容荷重(参考)
項目 | 数値(目安) |
せん断耐力 | 約1.5kN(150kgf) |
引張耐力 | 約1.0kN(100kgf) |
※ 実務では最低2個使用し、荷重分散・滑り防止を行う必要があります。

作業床の積載荷重(法規基準)
- 労働安全衛生規則 第564条により、作業床は 1m²あたり200kg以上 の荷重に耐える構造である必要があります。
- 木製足場板やアルミ製足場板の耐力差にも注意し、定期点検を実施しましょう。
筋交い・控え・風荷重の対応
- 支柱2スパンごとに交差筋交いを配置。
- 控え単管や壁つなぎで横揺れ・風荷重対策を実施。
- 「どぼくや」では風圧力・受圧面積・壁つなぎ間隔の検討がされており、同様の視点が必要です。
単管足場に使える参考数値一覧
項目 | 値 |
外径 | 48.6mm |
肉厚 | 2.4mm |
重量 | 約2.4kg/m |
断面係数Z | 約3.8cm^3 |
断面二次モーメントI | 約2.1×10^-8 m^4 |
ヤング率E(鉄) | 約2.06×10^11 N/m^2 |
現場での安全設計目安
評価項目 | 安全率考慮後の目安 |
支柱の耐荷重 | 約900〜1,200kgf |
クランプ1個の耐力 | 約150kgf |
作業床 | 1m²あたり200kg以上 |
支柱間隔 | 原則1.8m以下 |
支柱高さ(中間支えなし) | 6m以下が推奨 |
よくある質問(FAQ)
A1. いいえ。集中荷重や風圧、支柱高さにより補強が必要な場合があります。
A2. 明確な法的数値はありませんが、最低2個使用して滑りや変形を防ぐのが通例です。
A3. はい。木製は湿気や劣化に弱いため、設計荷重よりも余裕をもって使用してください。
まとめ:構造的根拠のある足場設計を
単管足場の設計には、支柱の座屈荷重・クランプ強度・風荷重・作業床荷重・筋交い配置など、複数の構造的要素を組み合わせて判断する必要があります。この記事は「どぼくや」の知見とも整合性を取りながら、現場で即使える計算とチェックポイントを整理しました。
式自体は理論的に正確ですが、足場全体の安全性を評価するには、より多角的な視点と実務的配慮が欠かせません。安全第一のために、設計段階でしっかりと根拠を持ち、日々の点検と管理を怠らないようにしましょう。

👤この記事を書いた人
ISHIDA DESIGN OFFICE 代表 I.D.O 足場組立等作業主任者/仮設設計技術者
仮設計算歴30年以上。建設現場での足場設計・点検・安全管理業務に従事。
現在は仮設設計と安全な工事にアドバイスをしている