「壁つなぎ」とは何か?【初心者にもわかる基礎知識】

「壁つなぎ」とは、足場が建物から離れて倒れないように、建物に固定する安全金具のことです。仮設足場の構造を支える極めて重要な部材であり、風荷重対策の核心でもあります。
1,強風による足場倒壊を防ぐ
2,作業中の揺れやバランス崩れを抑える
3,法令で設置が義務づけられている
経験や感覚での設置はNG!
近年では、事故防止のため構造計算書に基づく設計と記録が求められています。
壁つなぎには「構造計算書」が絶対に必要

何を計算しなければならないのか?
2,設計用風速・速度圧
3,壁つなぎ1本当たりの許容荷重と実荷重
4,壁つなぎ本数と取付け位置
5,設計判断の根拠(仮設工業会技術指針への準拠)
① 風荷重(風による力)
建設現場における壁つなぎの設置で最も重要なのが風圧荷重に耐える設計です。
仮設工業会の技術指針に基づき、以下の要素を考慮して計算されます:
実例
要素 | 内容 | 例 |
---|---|---|
基準風速 V0V_0 | 地域により異なる標準風速 | 横浜市:18 m/s |
瞬間風速係数 SS | 高さや周辺環境による補正 | 例:1.59 |
メッシュシートの充実率 φφ | 風の抜けやすさ | φ = 0.7(70%目詰まり) |
形状補正係数 RR | シートの縦横比など | 例:0.605 |
設計用速度圧 qzq_z | 実際に足場にかかる圧力 | 511.9 N/m² |
② 壁つなぎに作用する力
壁つなぎ1本あたりが支える風力が許容値(例えば5733N)を超えないようにする必要があります。
例:壁つなぎ1本にかかる風力の計算
③ 壁つなぎの設置間隔(ピッチ)
仮設工業会の指針による原則的な設置基準は次の通りです
足場高さ | 水平ピッチ | 垂直ピッチ |
~10m | 約5.4m(3スパン) | 約3.6m(2段) |
10~31m以下 | 約3.6m(2スパン) | 約3.6m(2段) |
⚠ 実際は風荷重の計算結果により設置ピッチは変更されます。「目安」で設置するのは危険です。
これはあくまで「目安」。実際の設置ピッチは風荷重計算に基づいて変更されるべきです

遵守すべき法令と最新条文(2025年時点)
足場は、必要な強度を有し、風等による倒壊を防止する措置を講じなければならない。
→ 壁つなぎと構造計算はこの義務の具体的実施項目です。
使用者は、作業者の危険を防止するため、機械・設備の構造上の安全措置を講じなければならない。
→ 足場も対象。壁つなぎの設置は「構造上の安全措置」に該当します。
作業床の端には手すり等を設けること。
→ 足場の「横揺れ」や「変位」を抑える壁つなぎは落下防止策の一部です。
工事には、技術上の管理を行う者を置くこと。
→ 主任技術者や現場監督は、計算書の確認と設置の実施責任を持ちます。
計算書がない場合のリスク
元請会社による工事中断命令
事故時の法的責任(重過失責任)
労災保険・損保の支払い対象外になる恐れ
構造計算書は「命を守るドキュメント」であり、「安全の証拠」となります。
現場監督・設計担当者が確認すべき3項目
2,現場で図面通りに設置されているかを写真等で記録しているか
3,仮設業者に設計者印のある正式な計算書を提示してもらっているか

よくある誤解とそのリスク
よくある誤解 | 実際のリスクと正しい知識 |
「2階建てなら壁つなぎ不要」 | ❌ シート面積が大きければ風荷重は想定以上に |
「隣の建物が風よけになるから大丈夫」 | ❌ 巻き込み風やビル風により風圧が倍増する可能性 |
「図面にはあるが現場にはついていない」 | ❌ 是正対象。保険・労災支給対象外になることも |

まとめ|壁つなぎは命と法的責任を守る「証明書付きの安全装置」
- 壁つなぎは「命綱」であり、「法令・構造・記録」が揃ってはじめて安全が保証されます。
- 計算書と図面があり、現場で設置・記録されていなければ法的にも技術的にも不備と見なされます。
- トラブル・訴訟・損害賠償のリスクを減らすには、設計段階からの壁つなぎ確認が不可欠です。
👤この記事を書いた人
ISHIDA DESIGN OFFICE 代表 I.D.O 足場組立等作業主任者/仮設設計技術者
仮設計算歴30年以上。建設現場での足場設計・点検・安全管理業務に従事。
現在は仮設設計と安全な工事にアドバイスをしている