その「ちょっとくらい」が一番こわい

「このくらいなら大丈夫だろう」
クサビ足場を見ていて、そんなモヤモヤを感じたことはないでしょうか。
クサビ足場は、住宅から中規模ビルまで幅広く使われる“現場の標準選手”ですが、法令違反をしたまま運用すると、倒壊・墜落・死亡事故・営業停止まで一気に飛び火します。労働安全衛生法や安衛則、建設業法は「現場を縛る敵」ではなく、**万一のときに自分と会社を守る“最後の盾”**でもあります。
この記事では、2025年時点で押さえておくべきクサビ足場まわりの主要法令・違反パターン・罰則・実務チェックフローを、私自身の現場経験を交えながら整理します。
無料の「法令チェックシート」も用意しているので、読み終わったらそのまま自分の現場に当てはめてチェックできるようにしました。
【この記事は3つのポイントだけ押さえればOK】
クサビ足場と法令違反の「リアルなリスク」
要約: クサビ足場の法令違反は、「ちょっとしたルール違反」のつもりでも、事故が起きた瞬間に刑事・民事・行政の三方向から責任を問われます。
ここでは、クサビ足場が“法律のど真ん中”にいる理由を、現場目線で整理します。
クサビ足場(くさび緊結式足場)は、
といったメリットがあります。
一方で、
- 壁つなぎをケチりがち
- 先行手すりを省略しがち
- 作業主任者の“名義貸し”になりがち
など、「早く終わらせたい」気持ちと相性が良すぎる足場でもあります。
私自身、過去に元請から「写真だけ見るとギリギリNGだね」と言われた現場で、あと一歩で指導・停止という経験をしました。
そのとき痛感したのは、
「法令は“事故が起きてから読むもの”では遅い」
ということです。
最終的な判断は、必ず元請・所轄労基署・専門家との協議を前提にしてください。
クサビ足場に関わる主要法令(2025年版)
要約: クサビ足場の法令違反を語るには、安衛法・安衛則・建設業法の三本柱は外せません。
2025年時点で押さえておきたい条文と、現場への影響ポイントをざっくり整理します。
1. 労働安全衛生法(安衛法)
- 第21条:危険防止措置義務
→ 事業者が講ずべき「危険の防止」全般。足場・墜落防止もここに含まれます。
(参照:刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律 ) - 第88条:作業計画の届出義務
→ 足場の組立・解体・変更を含む作業について、計画作成と届出が必要なケース。
(参照:労働安全衛生法第88条) - 第100条:罰則
→ 一定の違反に対し「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」などが規定されています(具体的な適用は条項によるため、最新のe-Govを必ず確認してください)。
(参照:労働安全衛生法 第100条:罰則・報告等義務)
2. 労働安全衛生規則(安衛則)
足場に直接関わるのがここです。
- 第14条:作業主任者の選任(高さ5m以上の足場等)
(参照:労働安全衛生法 第14条 作業主任者の選任について) - 第451条前後:点検のタイミング(組立後・使用中・解体時)
(参照:厚生労働省「足場安全点について」) - 第564条〜第572条:足場の構造・作業床幅・手すり・壁つなぎ間隔など
- 作業床幅は原則40cm以上
- 手すり高さ・中さん・蹴上板などの転落防止
- 壁つなぎ等による構造の安定(間隔の目安は技術指針・メーカー仕様も必ず確認)
(参照:労働安全衛生規則 第2編 第10章 通路、足場等)
「条文の日本語が読みにくい…」という声もよく聞きますが、e-Gov や厚労省リーフレットなら図入りの解説があります。現場で迷ったら「原典+リーフレット」に頼るのが一番早いです。
3. 建設業法
ここは、**元請・一次受けの“会社としての責任”**が問われるパートです。
足場事故そのものは安衛法のイメージが強いですが、「重大事故→監督処分→営業停止」という流れになったときは、建設業法が効いてきます。
4. 関連して意識しておきたい法律
※本記事は法令の概要を整理したものであり、最終的な判断は
元請・専門家・所轄労基署との協議を前提にしてください。
違反で問われる3つの責任(行政・民事・刑事)

要約: 足場事故が起きたとき、責任の矢印は「1本」ではなく、行政・民事・刑事の3本に分かれて飛んできます。
ここでは、どのルートで誰が責任を問われるのかをイメージしやすく整理します。
1. 行政上の責任(監督署・都道府県・国)
- 労働基準監督署による是正勧告・指導票
- 悪質・重大な場合は、送検・公表
- 建設業法上の監督処分(営業停止・許可取消 など)
行政上の責任は、会社の看板に直撃します。
「一度やらかすと、入札や元請からの信頼がガタ落ち」なのは、現場にいると肌で感じるところです。
2. 民事上の責任(損害賠償)
- 被災した作業員や遺族からの損害賠償請求
- 下請・元請間の求償・負担割合の争い
ここで効いてくるのが、
- 「どこまで法令に沿っていたか」
- 「どこまで記録を残していたか」
です。 「安衛法の条文をもっとスッキリ整理したい」という時に助かる、チャート形式の解説書です。2024年7月現在の労働安全衛生法に対応しています。 私は、足場や仮設まわりの条文を確認したい時に、この本を「安衛則の地図」のように使っています。法令集だけだと迷子になりがちな部分も、チャートのおかげで流れをイメージしやすい一冊です。
作業指示書・点検記録・写真・教育記録が、「やっていた」ことの客観的な証拠になります。
3. 刑事上の責任(個人)
- 刑法上の業務上過失致死傷など
- 現場代理人・作業主任者・安全衛生責任者・会社役員が対象になることも
「会社が守ってくれるだろう」と思っていたら、最終的に個人の責任を問われた…
こういう話は、新聞記事だけでなく、現場の雑談の中にもちらほら出てきます。
現場で起きがちな違反パターンとセルフチェック

要約: 実際の検査で指摘されやすいのは、**高度な法律論ではなく「基本のサボり」**です。
ここでは、クサビ足場で本当に多い“うっかり違反”を、チェックシート形式で整理します。
よくある違反パターン一覧
| 項目 | NG例 | 想定されるリスク |
|---|---|---|
| 壁つなぎ | 垂直・水平ともにピッチが粗い/最上層に無い | 足場の転倒・倒壊 |
| 作業床幅 | 40cm未満の箇所がある | 転落・踏み外し |
| 手すり・中さん | 片側だけ/高さ不足/開口部がノーガード | 転落・資材の落下 |
| 作業主任者 | 選任していない/名義だけで現場不在 | 法令違反・指導 |
| 点検 | 組立後・使用中・解体前の点検記録がない | 事故後に「未点検」と判断される |
| 先行手すり | コスト・手間を理由に省略 | 組立時の高所墜落 |
私の感覚では、**「壁つなぎ」と「点検記録」**が最もモヤモヤしやすいポイントです。
図面上では「一応入っている」けれど、実際の現場では
- 窓位置の都合で所定の位置に打てない
- 元請の意向で減らされる
- 追加足場・跳ね出し足場で“後入れ”になり、そのまま忘れられる
といったことが起こります。
チェックシートで押さえるべき最低限の項目(抜粋)
- 物件情報:現場名/所在地/階数/最大足場高さ
- 設計条件:風速・積雪・使用目的(養生のみ/荷揚げ兼用 等)
- 壁つなぎ:縦・横ピッチ/最上層の有無/妻側の処理
- 作業床:幅・最大積載荷重・使用部材(メーカー混用の有無)
- 手すり・開口部:先行手すりの有無/開口部の養生
- 点検:組立完了時・日常・臨時(強風・地震後)
※この記事用の無料チェックシートでは、上記を**「Yes/No」で塗りつぶすだけ」で確認**できる形にしています。
罰則を避けるための実務フロー
要約: 法令違反を避ける一番の近道は、**「現場ごとに同じフローで確認する」**ことです。
ここでは、私が実際の現場で使っている“4ステップ”の流れを共有します。

ステップ1:計画段階(施工計画書・図面)
- 設計条件(用途・高さ・風・積雪)を整理
- 仮設計画図に壁つなぎ位置・必要本数・先行手すりを明記
- メーカー仕様・仮設工業会技術指針に沿っているか確認
この段階で、Excelのチェックシートに「計画値」を入れておくと、現場でのズレを比較しやすくなります。
ステップ2:組立時(先行手すり・暫定安定)
- 先行手すりの徹底(“予定がズレても必ず入れる”を合言葉に)
- 仮固定の段階から、倒れそうな方向に“仮つなぎ”を先に入れる
- 作業主任者が、朝礼でその日の組立範囲とリスクを共有
ステップ3:使用中(点検・是正)
- 毎日の使用前点検(目視+触診)
- 強風・地震・大雨・大雪の後は臨時点検
- 点検結果はチェックリスト+写真で残す(スマホ+防水ケースが一番楽)
ステップ4:解体・再利用時
- 解体前点検で、変形・腐食・割れをリスト化
- 「とりあえず使えるだろう」は封印し、ストック棚で“要廃棄ゾーン”を作る
ここまでの流れを、1枚のチェックシートで通し管理できるようにしたのが、今回の記事に付けている「無料チェックシート」です。
ミニケーススタディ:指導・事故の「その後」
要約: 実際のトラブル事例を振り返ると、**「最初の小さな違反を放置した」**ことが共通しています。
ここでは、典型的な2パターンを簡単に追いかけます(実例を元にアレンジしたフィクション)。
ケース1:壁つなぎ不足を「見て見ぬふり」した現場

- 3階建て住宅、クサビ足場を全面に架設
- 妻面は窓が多く、設計通りの壁つなぎが取れず、現場判断で本数を減らす
- 強風の日に足場がふらつき、近隣から通報 → 元請・監督署が現場確認
- 結果:是正指導+元請から厳重注意、次の現場の発注が減る
ここで大きかったのは、「壁つなぎが減った」こと自体より、**「図面と違うのに調整の記録がない」**ことでした。
ケース2:点検記録がないまま墜落事故が発生

- 改修現場で、作業中に作業床の端部から墜落
- 手すりが一部外されていたが、その理由・タイミングが不明
- 点検表は「やったことにして後からまとめてハンコ」だった
- 結果:監督署の調査で、教育不足・点検不備として是正・送検へ
「点検していなかった」のか、「していたけど証拠がない」のか。
後から証明しようとしても、その場にいた人の記憶はあいまいです。
だからこそ、チェックシートと写真が**“未来の自分を守る保険”**になります。
関連記事
クサビ足場 法令チェックシート(PDF/Excel)
クサビ足場の計画・組立・使用・解体が、 主要法令に適合しているかを一括で確認できるチェックシートです。
朝礼やKY・TBM、足場引渡し時の説明資料としてそのまま使えるように作成しました。
クサビ足場の法令リスクを「1枚」で見える化
【無料PDF+Excelチェックシート】
現場ごとに必要な 「計画書」「壁つなぎピッチ」「作業床幅・手すり」「点検タイミング」 などを、法令条文とセットでチェックできる実務ツールです。
- PDF版 クサビ足場 法令遵守チェックシート(現場用マニュアル)
「監督署・元請への説明資料としてそのまま出せるレベルまで整えたい方向け」
A4印刷して朝礼・KY・足場引渡しにそのまま使用可能 - Excel無料版: 1現場分の「計画値/実測値」を入力して、法令チェック項目を整理
- Excel PRO版: 複数現場の一覧管理・計画値と実測値の自動比較・法令基準からの逸脱を色分け表示
『労働安全衛生法・安衛則・建設業法』で求められるポイントを、 現場で迷わず確認できることを意識して設計しています。
事故を防ぐだけでなく、「指導を受けたときに説明できる状態」をつくるためのチェックシートです。
FAQ
必ず元請・労基署・専門家に確認してください。
A. 原則としてNGです。安衛則および仮設工業会の技術指針・メーカー仕様では、足場の安定のために適切な間隔で壁つなぎ等による支持を求めています。開口部などで壁つなぎが取れない場合は、ジャッキベース・控え・アンカー位置の変更など、設計段階で代替案を検討してください。最終判断は施工計画書と元請協議が前提です。
(参照:第564条 第1項 第4号 等(「足場の組立て等の作業」))
A. 安衛則では、高さ5m以上の足場で作業主任者の選任が義務づけられていますが、5m未満でもリスクが高い作業は存在します。法令上の義務を満たすだけでなく、実務的には「足場の責任者」を明確にしておく方が、安全・説明責任の両面で安心です。
(参照:労働安全衛生規則(安衛則) 第14条(作業主任者の選任))
A. いいえ。事故がなくても、労働基準監督署の立ち入りや元請の安全パトロールで是正指導や工事中止につながることがあります。特に足場は、全国的に重点監督の対象となることが多い分野です。
(参照:労働安全衛生法 第99条(報告徴収・立入検査))
A. 基本はメーカー仕様書を優先しつつ、仮設工業会の指針も参照する形になります。いずれにせよ、「規定値より厳しい方」に合わせるのが安全側の判断です。迷ったときは、メーカーの技術窓口や元請・設計者と相談してください。
A. 寸法が現行法令に適合しているか(作業床幅・手すり高さなど)を確認したうえで、腐食・変形・溶接部の割れがないかを点検します。法令上の寸法を満たしていても、損傷があれば交換が必要です。検査時には「古い仕様のまま使っている」こと自体が是正対象になりやすいため、写真付きで点検記録を残すことをおすすめします。
(参照:労働安全衛生規則第563条と第564条の整理について)
まとめ:法令を「味方」にして現場を守る

要約: 法令を守ることは、「監督署に怒られないため」だけではありません。
現場の安全・会社の信頼・自分自身のキャリアを守るための、一番コスパのいい投資です。
この記事のポイントおさらい(5点)
- クサビ足場は、施工性と引き換えに法令違反が起きやすい構造をしている。
- 安衛法・安衛則・建設業法が、それぞれ違う角度から責任を問う。
- 実際の違反は、高度な条文解釈ではなく**「基本のサボり」**から始まる。
- 計画→組立→使用→解体の4ステップで、毎回同じフローで確認することが一番の予防策。
- 無料チェックシートと記録の仕組みを作れば、事故予防と“万一”の備えの両方が手に入る。
この記事の「まとめコメント」(読者へのメッセージ)
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。
クサビ足場の法令や罰則の話は、読んでいて気持ちのいいテーマではないかもしれません。
でも、私はいつも「ここを避けて通ると、結局あとで高くつく」と感じています。
- ほんの少しの手間で防げたはずの事故
- 1枚の写真と記録があれば守れたかもしれないキャリア
- 「あの現場は安心だ」と言ってもらえる信頼
それらはすべて、今日の一つひとつの判断の積み重ねだと思います。
この記事が、あなたの現場で
- 「ここは一度、ちゃんと確認しておこう」
- 「このチェックシート、次の現場でも使ってみよう」
と感じてもらえるきっかけになれば、書き手としてこれ以上うれしいことはありません。
私はこれからも、
「現場の安全とコストのバランスをとりながら、ちゃんと儲かる足場設計」
というテーマで発信を続けていきます。
もしこの記事が少しでも役に立ったら、
また別の記事も覗いてみてもらえると、とても励みになります。
一緒に、安心して仕事ができる現場と、ムリのない働き方をつくっていきましょう。
参考・出典リスト(省庁・規格・メーカーなど)
- 厚生労働省:労働安全衛生法・労働安全衛生規則関連情報(mhlw.go.jp)
- e-Gov法令検索:労働安全衛生法・建設業法・刑法・民法 等(日本法令データベース)(内閣官房)
- 仮設工業会:足場技術指針・クサビ緊結式足場関連資料(最新版参照)(mhlw.go.jp)
著者情報・最終更新日
※最終更新日:2025年11月19日
👤この記事の執筆者/監修
ISHIDA DESIGN OFFICE
代表 I.D.O(仮設設計技術者/足場組立作業主任者)
- 建設業歴30年以上、仮設設計・点検・講義実績多数・仮設設計技術者
- 厚労省・仮設工業会の最新基準に基づき執筆
仮設設計・CAD作図・構造チェックのご依頼はこちら:
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